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かすかな記憶

6月26日、入院してから2日が過ぎました。仕事を終え、夜になってしまいましたが、見舞いに行きました。
直ぐにも生死に関わるような状況ではありませんから、普通なら見舞いの菓子とか花などを持って行くところですが、食べることはできないし、花を持って行っても喜んでくれるとも思えないこともあり、何も持たない寂しい見舞いです。

居室という意味では、特養ホームと同じ個室ですが壁もベッドも白く、少し消毒剤の臭いもするし…当たり前の事ながら、やはり病院は病院です。
腕に点滴のチューブをつながれて、半分眠っているようでした。

何か夢を見ているのか・・・、ときどき「フフッ、フフッ」と笑ったりしていましたが、しばらくすると、うまく喋れない不明瞭な声で「母さ~ん」と言いながら泣き出しました。

「お母さん!」と声を掛けると、うっすらと目を開け、無表情というか不思議そうな顔で私を見ました。「何か夢を見ていたの?」と聴くと、弱々しくうなずいてからまた大声で泣きました。

来週の月曜日に予定されている「胃ろう(PEG)」の手術に関する家族の同意書「胃瘻造設 説明書」にサインをして、「また明日来るね・・・」と言い置いて30分くらいで病室を後にしました。

午後8時、病院からの帰り道には、おぼろな三日月が出ていました。

たぶん私がまだ5歳の頃だったはずです、信州の田舎の雪の積った夜道を、父と母(多分弟が背負われていた)とトボトボと歩いていたときのことを思い出しました。
夜行列車で東京へ出て行くために家族4人、駅へ向かっていたのでしょう。
きっとすごく寒かったと思います、何もしゃべらず、ただ静かに歩いていました。
私は泣いてはいませんでしたが何となく不安でした。そのときも冴えた夜空の、今日と同じ左前方に月が出ていたような…でもその前後のことは何も覚えていません。

この私の記憶について両親と話したことは一度もありませんでした、今となっては母に確認することもできません。

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